特集シリーズ第2回 | デジタル円を5日間で理解する

テーマを深堀しよう

SBI vs 3メガバンク vs JPYC ── 「民間デジタル円」の仕組みと、静かに始まった陣取り合戦

2026年6月24日(火)| サラリーマン投資家のブログ

第1回では、「デジタル円」に3種類あることを整理しました。今回はその中で今一番動きが活発な「民間のステーブルコイン」に絞って、具体的な仕組みと、SBI・3メガバンク・JPYCそれぞれの狙いを見ていきます。

結論から言ってしまうと、この3つのプレイヤーは「デジタル円」という同じ土俵にいるように見えて、実は狙っているお客さんも、使い方も、儲け方もまったく違うんです。


「信託型」の仕組みを、一歩ずつ理解する

まずSBIと3メガバンクが採用する「信託型」の仕組みを、順を追って説明しますね。

ステップ①:あなたが1万円を払って、1万コイン分のデジタルマネーを買う。

ステップ②:その1万円は信託銀行に預けられる。 信託銀行は、受け取ったお金を預金や国債など安全な資産で管理します。

ステップ③:あなたはデジタルマネーを自由に使える。 送金、支払い、貸し出し(レンディング)など。ブロックチェーン上で動くので、24時間365日、数秒で送金できるんです。

ステップ④:いつでも「1コイン=1円」で現金に戻せる。 信託銀行がお金を持っているので、交換はちゃんと保証されています。

ここで大事なのが「倒産隔離」という仕組み。もしコインを販売する会社が経営破綻しても、信託銀行に預けられたお金は、その会社の借金の返済に使われることはありません。法律で守られています。これ、銀行預金が「預金保険」で1,000万円まで保護されるのと似た発想なんですが、信託型の場合は金額の上限なく全額が保護されるのがポイントなんですね。

一方で、信託銀行自体の信用リスク(信託銀行が破綻するリスク)はゼロではありません。ただ、日本の大手信託銀行が破綻するシナリオは現実的にはかなり限定的ですし、裏付け資産も預金や国債といった安全性の高いもので構成されるので、リスクは相当低いと考えられています。


SBI「JPYSC」── 先に動いた総合金融グループ

SBIグループが今週にも発行するのが「JPYSC」(ジェーピーワイエスシー)。信託型ステーブルコインとしては国内初になります。

項目内容
名称JPYSC
発行者(受託者)SBI新生信託銀行
販売パートナーSBI VCトレード(暗号資産の交換業者)
技術パートナースターテイル社(シンガポールのフィンテック企業、SBIが20%出資)
送金上限なし(信託型のため)
法律上の分類3号電子決済手段(特定信託受益権)
想定ユーザーまず機関投資家・グローバル企業。将来的には店舗決済も

SBIの強みは、証券(SBI証券)、銀行(住信SBIネット銀行・SBI新生銀行)、暗号資産の交換業(SBI VCトレード)をグループ内に全部持っていること。JPYSCをこれらのサービスと組み合わせることで、「SBI経済圏」の中でお金がデジタルでスムーズに流れる世界を作ろうとしているわけです。

注目すべきは3つの収益モデルです。

①裏付け資産からの金利収入:利用者から預かったお金を国債などで運用して、その利息がSBI側の収入になります。日本の改正法では、裏付け資金の50%まで短期国債での運用が認められるようになりました。JPYCの岡部代表は「1兆円分を発行できれば、ざっと50億円の金利収入が得られる」と試算しているそうです。

②レンディング(貸し出し):利用者がJPYSCをSBIに貸し出して、SBIがそれを運用し、利用者が金利収入を得る仕組みも予定されています。すでにSBI VCトレードはドル建てステーブルコイン「USDC」のレンディングを開始していて、開始記念で年率10%を提示したこともあります(通常は年率5%前後、変動あり)。

③決済手数料のリプレイス:将来的にはQRコード決済と組み合わせて、飲食店や小売店での支払いにも使えるようにする構想があります。ステーブルコインの手数料はクレジットカード(3〜5%程度)と比べて大幅に安くなる可能性があり、加盟店にとってもメリットがある設計です。


3メガバンク ── 「規格の乱立を防ぐ」ための共同戦線

三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行の3メガバンクは、2026年度中の実取引開始を目指して、共同でステーブルコインを発行する準備を進めています。6月9日に協議会の設置が発表されました。

普段は競争している3行がなぜ手を組むのか。その理由、実はかなりはっきりしています。「バラバラの銘柄が乱立して、規格が統一されないと普及の妨げになる」から、なんですね。

電子マネーで似たようなことが起きましたよね。Suica、PASMO、nanaco、WAON、楽天Edy……使える店が違って、結局「現金が一番楽」となってしまった経験、ありませんか。同じ轍を踏まないために、最初から規格を揃えようという発想なんです。

項目内容
参加行三菱UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行
発行の仕組み3行が「共同委託者」、三菱UFJ信託銀行が「受託者」(発行体)
技術基盤Progmat(プログマ)── 三菱UFJ信託銀行から生まれたフィンテック企業。メガバンク各行やNTTデータ、JPX総研なども出資
最初の利用者三菱商事(国内外240社以上の拠点間決済で試験利用)
送金上限なし(信託型のため)
金融庁の支援「決済高度化プロジェクト(PIP)」の初の支援案件として採択

三菱商事は国内外に240社以上の事業会社を持っていて、拠点間の送金は日常的に発生します。従来の銀行送金だと数日かかっていた国際決済が、ステーブルコインなら数秒で完了する可能性がある。手数料も大幅に減る。まずはここで実績を作って、他の企業にも広げていく戦略です。将来的にはドル建ての発行も検討するとされています。

技術基盤のProgmat(プログマ)は、ステーブルコインだけじゃなくて、株式や債券をデジタル化する「セキュリティトークン」や、ポイントみたいな「ユーティリティトークン」も扱える総合的なプラットフォームなんです。単なるステーブルコインの「レール」じゃなくて、日本の金融インフラそのものをデジタル化する基盤を目指している、というのが野心的なところ。

さらに、野村証券や大和証券もこのステーブルコインを使った株式・債券の取引の枠組み構築に動いているとの報道もあって、「決済だけじゃなく証券取引のインフラにもなる」可能性が見えてきています。


JPYC ── 先行者として走り続けるスタートアップ

JPYCは2025年10月に国内初の円建てステーブルコインを発行して、すでに実稼働しています。初日は開始3時間で1,500万円分が発行されるなど、滑り出しは好調でした。

ただ前回触れたように、「資金移動業」の枠組みなので1回100万円の送金制限があります。大口の企業間決済には向きませんが、個人の国際送金では大きなアドバンテージがあるんです。

従来の国際銀行送金(SWIFT経由)で200ドル(約3万円)を送ると、平均で送金額の17.5%、つまり約5,200円もの手数料がかかっていました。JPYCなら「手数料1円以下」を目指すとしています。この差、毎月仕送りをしている人にとっては、年間で数万円の節約になりうるインパクトです。


3陣営の比較──何が違い、どう住み分けるのか

JPYSC(SBI)3メガ共同SCJPYC
発行タイプ信託型(3号)信託型(3号)資金移動型(1号)
送金上限なしなし1回100万円
裏付け資産の保護信託の倒産隔離あり信託の倒産隔離あり国債8割+現預金2割で供託
メインの想定用途グループ内金融サービス連携、レンディング企業間の大口決済・国際送金・証券決済個人の送金・小口決済
技術基盤スターテイル社ProgmatEthereum, Avalanche, Polygon
現在の状況今週にも発行年度内の実取引目標2025年10月に発行済み
将来の展開店舗QR決済との連携他の金融機関にも拡大、ドル建ても検討3年で発行額1兆円を目標

見えてくるのは、はっきりとした住み分けの構図です。JPYCは個人の小口送金、SBIのJPYSCはSBIグループのエコシステム強化とレンディング、3メガのステーブルコインは企業間の大口決済と金融市場インフラ。それぞれ狙っている「お客さん」が違うんですね。

ただ、将来的にSBIが店舗決済に進出すれば個人市場でJPYCと競合する可能性もありますし、3メガが個人向けサービスに展開する可能性もゼロではありません。今は住み分けていますが、市場が成長するにつれて競争が激しくなる場面も出てくるかもしれないですね。


海外では何が起きているのか──Shopify連携とCircle社のIPO

「ステーブルコインで買い物」、海外ではもう現実になりつつあります。

アメリカでは暗号資産取引所大手のCoinbaseが、ECプラットフォームShopify(ショッピファイ)と連携して、ステーブルコインでの店舗決済を開始。34カ国でUSDCによる支払いが可能になりました。加盟店にとってはクレジットカードより手数料が安く、キャッシュバックキャンペーンも展開されています。

USDCを発行するCircle社は2025年6月にIPO(新規株式公開)を完了して、11億ドル(約1,760億円)を調達しました。ステーブルコイン発行企業が上場して巨額の資金を調達したこと自体が、この市場の「制度的成熟」を象徴していると言えそうです。

さらに注目なのは、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ゴールドマン・サックス、ドイツ銀行、UBS、三菱UFJ銀行など、米欧日の大手銀行10行がG7通貨に連動するステーブルコインの共同発行を検討しているとの報道もあること。詳細はまだ不明ですが、ステーブルコインが「一部のテック企業のもの」から「世界の主要銀行のインフラ」へと変わりつつある兆候だと思います。


「国際送金が数秒・手数料ほぼゼロ」は本当に実現するのか

よく言われるこのフレーズ、半分は本当で、半分はまだ道半ばです。

技術的には、ブロックチェーン上でのコインの移動は数秒で完了しますし、手数料もSWIFT経由の国際銀行送金(約5,000円〜)と比べれば劇的に安くなる可能性があります。月間6.4億件・約467兆円の送金をすでに処理しているステーブルコインの実績は、「技術的にはできる」ことを証明していると言っていいでしょう。

ただ、これはあくまで「コインがブロックチェーン上を移動する」部分の話なんです。実際に企業の決済に使うとなると、不正送金を防ぐための本人確認(KYC)、マネーロンダリング対策(AML)、国ごとの法律への対応、税務処理、為替レートの反映など、技術以外のハードルがたくさんあります。

3メガバンクの実取引開始が当初の2025年度から2026年度に延期されたのも、こうした法務・技術面の調整が複雑だったからです。競合するメガバンク同士が「同じステーブルコイン」を共同で出すこと自体に、相当な調整コストがかかっているのは、想像に難くないですよね。

📌 まとめ:民間デジタル円は「SBI(先行・グループ連携型)」「3メガバンク(業界標準・大口決済型)」「JPYC(個人・小口型)」の3陣営が動いています。それぞれ狙いと強みが違って、今のところは住み分けの構図。海外ではShopify連携やCircle社IPOなど、すでに実ビジネスに組み込まれ始めています。「送金が数秒・手数料ゼロ」の実現には技術以外の課題もまだ残っていますが、方向としてはそちらに進んでいるのは間違いなさそうです。

次回・第3回では、視点を民間から日銀に移します。6月10日に公表されたばかりのパイロット実験報告書──「毎秒5万件の処理に成功」「致命的な技術課題は見つかっていない」。でも「いつ出すか」はまだ言わない。この慎重さの裏側を読み解いていきます。


※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の投資行動を推奨するものではありません。投資の最終判断はご自身の責任で行ってください。

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